例題その1
女の子と犬は仲が良い。彼女はたびたび小さな友人のことを話してくれる。
「うちのケンは、すっごくかわいい」
あと、ケンは賢い。ご飯のときちゃんと「待て」ができる。投げたボールがどこかにいっても探して持って来てくれる。ケンはボール遊びとブラッシングが大好きなの。
彼女は小さな彼と長い時間を共にして友情を結んでいた。
ある日、女の子の家の庭に傷ついた百舌鳥が横たわっていた。飛ぶのは叶わないがまだ息があり身体を震わせている。犬はそれを見つけると駆け寄って口に咥えた。彼は新しいおもちゃを与えられたように楽しげに、百舌鳥を振り回した。
女の子は急いで靴を履き庭に降りていく。涙を浮かべて彼に抗議した。
「ダメ!」「やめて!」
「どうしてそんなことするの」
「かわいそうでしょ!」
彼女は百舌鳥がかわいそうだと言って泣いた。賢い犬は戸惑っていた。
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どうして女の子は犬ではなく百舌鳥に感情移入するのか。仲良しの犬と一緒になって「楽しいね」「おもちゃを見つけてよかったね」とならないのか。なぜ、百舌鳥と犬、どちらの味方をしようかしらと選択に悩まないのか。苦しそうな初対面の百舌鳥と楽しそうにしている小さな友人のどちらをとるかを考えて立ち止まらないのか。
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この例題は人を二つに分ける問い。百舌鳥に感情移入する人と犬にそうする人の二つに分けるのではなくて、これを問いにする人としない人に分ける問い。この二つの間には深い谷がある。あとで私はこの谷に名前をつけよう。
aaa and bbb
ここはA9のマス。ここはエクセル。私はエクセルにこの文章を書いている。勤務中に少しの息抜き。ここはA10のマス。白いマスに白い文字で書けば誰にも見つかりはしない。ヘマをしなければ私は私以外の誰にも見つかりはしない。
たぷたぷとタイプする。
会社支給の退屈な黒色のノートパソコンでタイプしている。aaaandbbbと名付ける。エーエーエーアンドビービービー。リズムがいい。丸の多い見た目が私を楽しませてくれた。
ウィトゲンシュタインの文章がツイッターで流れてきた。「誰も自分自身について間違いなく「俺は糞みたいな奴だ」などと言うことはできない」「なにしろ私がそう言うとしたら、ある意味でそれは正しいのかもしれないが、自分ではその正しさに浸ることができない」。
俺は糞みたいな奴だ。
それはとても整然な物言いで糞みたいでない。
僕は狂っている。
それはとてもスマートな告白で狂っていない。誰かが糞かどうか、狂っているかどうかは少なくとも短文では表せない。短い文節はいつも正しくまっすぐな針のよう。
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私の後ろで同僚が溜息を吐いた。
魂工場で製品が作られるときにゴミがでる。黒い煙や汚水などの捨てるべきゴミが口から廃棄されて空気に消えていく。もしも、溜息に色がついていたらと私は妄想する。軽いそれは冬の息くらいの白だが重く毒素の濃い溜息は痰みたいに黄ばんでくるんだ。
「マスクをしてください」
「他人にうつさないように」
診察室を出た私は長椅子に腰掛けた。目の先に受付があり、女性の事務員の方がカウンターを境に年配の患者へなにかを説明している。できるだけ早く役所で手続きをするように云々。彼女はいくつかの事柄をはっきりと区切って刻んだ。おばあちゃん!役所!手続き!保険!書類!代金!
私も年寄りになったらあんな風に言われるのだろうか。彫刻みたいに言葉を削らないと忘れてしまうのだろうかと嫌になった。
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クラーイ! 最初から辛気くさっ!