例題その1

女の子と犬は仲が良い。彼女はたびたび小さな友人のことを話してくれる。

「うちのケンは、すっごくかわいい」

あと、ケンは賢い。ご飯のときちゃんと「待て」ができる。投げたボールがどこかにいっても探して持って来てくれる。ケンはボール遊びとブラッシングが大好きなの。

彼女は小さな彼と長い時間を共にして友情を結んでいた。

ある日、女の子の家の庭に傷ついた百舌鳥が横たわっていた。飛ぶのは叶わないがまだ息があり身体を震わせている。犬はそれを見つけると駆け寄って口に咥えた。彼は新しいおもちゃを与えられたように楽しげに、百舌鳥を振り回した。

女の子は急いで靴を履き庭に降りていく。涙を浮かべて彼に抗議した。

「ダメ!」「やめて!」

「どうしてそんなことするの」

「かわいそうでしょ!」

彼女は百舌鳥がかわいそうだと言って泣いた。賢い犬は戸惑っていた。

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どうして女の子は犬ではなく百舌鳥に感情移入するのか。仲良しの犬と一緒になって「楽しいね」「おもちゃを見つけてよかったね」とならないのか。なぜ、百舌鳥と犬、どちらの味方をしようかしらと選択に悩まないのか。苦しそうな初対面の百舌鳥と楽しそうにしている小さな友人のどちらをとるかを考えて立ち止まらないのか。

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この例題は人を二つに分ける問い。百舌鳥に感情移入する人と犬にそうする人の二つに分けるのではなくて、これを問いにする人としない人に分ける問い。この二つの間には深い谷がある。あとで私はこの谷に名前をつけよう。